「普段公務員」、チャンさんと詣でる清荒神

「普段公務員」、チャンさんと詣でる清荒神

2024年1月、阪神間の某市職員であるチャンさんと一緒に、宝塚市・清荒神をウロウロしました。

実は2023年の1月にも生駒さん詣りをしていて、門前町を1月に訪ねるのはウロウローカルの恒例行事となってきました。

集合は清荒神駅前。

改札を出ると、目の前に市場の入り口があり、この時点でワクワクが止まりません。

案内してくださったチャンさん。

「清荒神は竈門の神様。飲食店が繁盛するよう、お家が火事にならないようにお参りに来るところで、門前町として栄えてきました。近年は参拝者の減少でお店が減っていたのですが、ここ5年くらいで新しいお店や若い子が増えてきています。それがなぜなのかは、歩きながら説明します。」

チャンさんは清荒神の中で「INCLINE」という場所を運営しています。DJ活動までしていて、DJ名はずばり「普段公務員」。

ちなみに集合場所の隣にすぐ見えていた駅舎は元々チケット売り場。ICカード化で要らなくなり、現在は使われなくなっているこの場所を活用してイベントを開催してみたりしているそうです。なぜチャンさんは普段公務員として働きながら、こんなにアレコレ活動しているのか? 清荒神が盛り上がっている理由と同じくらい気になりつつ、歩き始めました。

清荒神に吹く新しい風を駅前で感じられる場所

まずはじめに向かったのが宝塚中央図書館。

「清荒神を語る上で欠かせないのが『シチニア食堂』の存在です。2012年にこのお店ができてからは、これまでのようにお参りをするためではなくて、このお店をめがけて清荒神にやってくる人たちが出てくるようになりました。すると、参道沿いの空き店舗が少しずつ若い人たちで埋まってました。」

宝塚私立中央図書館と文化ホールに挟まれたこの一画が空いた時、駅前の好立地ということもあり候補は色々とあったそうですが、ひときわ清荒神のまちに熱い想いを持っていたシチニア食堂が運営事業者として選ばれたのだとか。

シチニア食堂が運営するお店、「キキルアック」。

まずはここでドリンクを調達します。目の前に、大きなテーブルとベンチがあったので、本格的に歩く前にまったりとおしゃべりしました。こういう、まちなかのリビングのような場所はいくらあっても嬉しいですね。

ついに歩き始めた時、通りすがりの方に「私も加わっていいですか?」と声を掛けられました。最近宝塚に引っ越して来たのでまちのことを知ろうと散策を予定していたところ、外でお茶をしている私たちを見かけ、思い切って声を掛けてくださったそうです。行動力がすごいし、声かけても良いと思ってもらえたのがなんだか嬉しい!仲間も増えたところで、いざ出発。

店と家とのせめぎあいの最前線

参道沿いはずっと商店街になっています。1月はやはり参拝客の方も多く、この日は人が多いとのことでした。ただし夏は全然人が歩いておらず、商いするには厳しいと言われているそう。

こども110番が「アトム110番」!さすが宝塚市。(手塚治虫先生は宝塚出身)
門前町らしく歴史がありそうなお店もちらほら。

昔はもっと色んなお店が入っていたそうですが、参拝客の減少や高齢化でどんどん減ってしまったと聞きます。

「清荒神」の文字がかっこいい鳥居。
細い道が長く続いています。

途中、ぽっかりと空いた土地にたどり着きました。

まちなかのフリースペースとして使われていた場所。かつてはベンチも置いてありました。

リュックサックマーケット(誰でも持ち寄った物を販売してOKのイベント)やカラオケ大会、チャンさんが「狂ったチームラボみたいだった」と形容する、清荒神を拠点とする電子工作グループ「ヅカテン」による光る獅子舞のイベント(!?)まで、清荒神の賑わいの実験場的なスペースだったようです。

しかし、宅地開発の波が清荒神に押し寄せています。

このスペースも入れなくなってしまっていて、どうやら住宅になることが決まっているようです。向かい側にも大規模に土地を開発しようとしているところがあり、大きなマンションを建設する予定であることが見てとれました。

本来、清荒神参道地区には、「開発事業者は、建築物の建築計画にあたっては、建築物の直接参道へ通ずる階はできるだけ店舗とするよう努める。」というまちづくりルールが決められています。ただ、義務ではなく、「店舗とすることが出来ない場合は、景観ル-ルに十分に配慮しなければならない。」という逃げ道も用意されているため、新しく建つ建物の1階が店舗になることは稀です。

参道沿いには、かつてはずらっと並んでいたであろうお店が歯抜けになっていて、完全に住宅に置き換わっているところもありました。

チャンさんには、「できるだけお店のまま残っていってほしくて、その方法を模索しています」と教えてもらいました。

清荒神が魅力的なまちとして知られていくほど、住宅地としての需要も高まっていくことが予想されます。このまちに住みたいという思いと、まちとしての魅力を残していきたいという思い。その2つは本来矛盾するものではないはず。何かできることはないのでしょうか。

イケてるお店のオンパレード

まだまだ参道は続きます。(全長1.2kmほど)

これがあのシチニア食堂!この日はイベントがあるということで閉まっていました。
シチニア食堂などの建築設計を手がけた奥田達郎さんの設計事務所。
ベーグル屋SIDEMAAN’Sさん。貴重なラス1のベーグルを買いました(めっちゃ美味しかったです)。
お洒落なベーグル屋さんの真横に、缶ビールとともに休憩を促すお店も。

「良い雰囲気のお店があるなー」と思ったら、必ずといっていいほど店主さんやお客さんがチャンさんに声をかけてくるのが印象的でした。

そんなこんなで歩いていると、またかっこいいお店が現れました。

革職人・笠井さんのお店「Before Dark」。

お店の空間自体も、プロダクトも、随所にこだわりが詰まっていてとてもかっこいい・・・!東京で出店したりもしているそう。

「チャンさんのボーナスは清荒神のみんなが狙ってる」みたいな話をしている場面ですが空間のおかげでサマになっています。笑

余談ですが・・・改めてこの写真を見て、革製品が並ぶお店に飲み物を持ち込んで良かったのかな?チャンさんだからOKだったのかな?と思ったのですが、お店のHPを見ると、「近隣にはカフェもたくさんあるのでコーヒーでも片手にゆっくり見て行ってください」といった内容が書かれていました。お店に気軽に入りたくなりますし、清荒神の他のお店を大事にしている心意気も感じられて、やっぱりかっこいいビフォアダークさんでした。

参道沿いはずっと楽しい

引き続き、どんどん参道沿いを進んでいきます。

参道の途中で高速道路が上に架かっています。左側には川も流れていて、飽きることがありません。
家の入り口が自動販売機で塞がれてる!

もうそろそろ清荒神さんに着くなという所に、おでん屋さんの屋台が出ていました。ちょうど日が暮れていく頃で、「半額やで!」の掛け声が。誰からともなく買い始めます。

「こんにゃくは?」
「大丈夫です」
「大丈夫ってどっちや!いるのかいらんのかはっきりせんかい!」
怒ってるんとちゃうで、はっきりさせてくれな困るだけやで、と言う店主さんとの掛け合いも楽しみつつ、1月の森と川に囲まれた空気の中で食べるおでんは最高でした。お出汁がすごく美味しくて、また見かけたら半額じゃなくてもぜひ食べたいなと思います。

立ち寄って正解!体に沁みる美味しさでした。
山門が近づいてくると屋台がずらりと並び出します。

ここまでで駅からストレートに歩けば15分くらいでしょうか。参道沿いの情報量が濃く、楽しいお店も多いのでかなり時間が経っていて、気づけばもうすぐ日が沈むような時間になっていました。

まるでご利益のテーマパーク? 清澄寺に到着!

山門をくぐり、少し進むと六角形のスペースがあります。ここを左側に進めば神社、まっすぐ進めばお寺に参拝できるという分岐点です。神様と仏様の両方をお祀りしているお寺なんですね。

六角形のスペース。
神社方面。
お寺方面。

まずは神社にお詣りします。

鳥居の前では布袋さんがニコニコと笑っており、いかにも縁起が良さそう。
たくさんの参拝客が来てもさばけそうな、システマチックおみくじコーナー。

チャンさんが「もっと楽しいコーナーがあります」と言いながら連れてきてくれたのが、本殿の後ろにあったこちら。

荒神影向の榊とは…?

格子の向こうをよく見ると、小銭がちらほら置かれています。それを持ち帰り、大事に持っておくと良縁に恵まれるとのこと!ただし、次に来るときは倍にしてお返しする必要があります。

棒で手繰り寄せて、拾わせていただきます。

火の神様、台所の神様なので、火箸がたくさん納められています。

バラエティ豊か。

次々とアトラクションが登場します。こちらは、一願地蔵尊。

近くで見るとかなり大きい。

大きな像の頭上まで手前の柄杓で水をかけて願い事をするとご利益があるそうです。これが結構難しい!そして楽しい。

清荒神はさながら、縁起界のUSJ(ユニバーサルスタジオジャパン)のようでした。門の近くには売店もあって、お土産用のバームクーヘンまで売っています。テーマパークすぎる。

帰りに食べた売店の明石焼きが美味しかったです。これを100個食べた高校生もいるらしい。

チャンさんの自宅兼ギャラリー・INCLINE

最後に、清荒神からほど近くにチャンさんが持つ拠点「INCLINE」にお邪魔させてもらいました。

1階はシンプルな内装になっていてギャラリー使いもしやすそう。

元々のオーナーさんはここで喫茶店をやっていたのですが坂の上り下りが厳しくなり手放したのを、チャンさんが2019年に35年フルローンを組んで買ったのだそうです。覚悟がすごい。

平日は保育カフェをやっていたり、ギャラリー利用のときはホワイトキューブとして、たまに日本酒バーをやったりもすると話してくださいました。

2階は「趣味部屋」。また雰囲気がガラッと変わります。アート作品がかっこいい!

でも、なぜフルローンを組んでまでこの場所をやっていこうと考えたのでしょうか?同じ公務員として気になりました。

子ども用の椅子が並ぶINCLINEのカウンター。場所、もといチャンさんの懐の深さを感じます。

「海外に行った経験からまちのことをやりたくて公務員になったけど、組織が大きすぎて身動きが取りづらいのが現状でした。自分の肩書きの無さに焦りつつも、色んなイベントにはよく顔を出していました。そこで持てたつながりや経験から、自分もまちの中に場所を持ちたいと考えるように。今は本業と両立しながらINCLINEの運営をしています。公務員はローンも組みやすいし、こんなことをする公務員がもっと増えたらいいな、という気持ちでやっています。」

まちの中にダイブしている公務員は、自分の無力さを感じ、少なからず公務員を辞めたくなる時もあると思います。でも、チャンさんは公務員を辞めないからこその道もあることを示してくれました。

帰り道、緩く長く続いていく参道を歩きながら、チャンさんが何者かになることを求めて進んでいく道と、清荒神のまちのアイデンティティを守っていくという2つの道は、一貫して繋がっているんだなと感じられました。

仕事で思うように動けない時でも、プライベートでできることはたくさんある。何よりも印象的だったのが、清荒神の店主さんたちがみんなチャンさんを知っていて親しみを覚えていることでした。好きなまちがあり、自分がそこで何か貢献したいと思った時のヒントがたくさん詰まった清荒神詣になりました。

良いご縁をたくさんいただきました!今度はお礼参りに行きますね。

Special Thanks: Yasuhiro Matsumoto

オススメのお店情報
KIKILUAK
宝塚市清荒神1-2-18
営業時間:9時〜18時
定休日:水曜日
Before Dark
宝塚市清荒神3-1-10
営業時間:14時〜18時
定休日:水曜・臨時休業あり
SIDEMAAN'S
宝塚市清荒神3-3-19 ハイムS 101
営業時間:12時〜17時
定休日:月〜金曜日

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