2024年5月、2つの川に挟まれたと水辺のまちであり、リトル沖縄と呼ばれることもある大阪市大正区をまち歩きしてきました。
この辺りをウロウロしました。
今回の案内人は、2010年から2017年まで大正区長を務められた筋原さん(2024年現在は生野区長)。まずは、大正区役所にて今日の訪れるスポットを中心に、筋原さんの区長時代から現在に至るまでの大正区のまちづくりについてお話しを聞きました。現大正区長の古川さんも急遽参加いただき、ウロウロ〜カル史上とてもちゃんとしたまち歩きになりそう?!
ところが筋原さんは大阪市職員からの叩き上げとは思えないユニークな方で、これまでたくさん失敗してきた経験から「行政的にギリギリアウトを目指す」「イベントをしても人口は増えない、ふだんの暮らしが楽しくなる仕掛けが大事」「補助金を使うと面白く無くなるし継続性もなくなる」など目から鱗な言葉が次々と飛び出し、ウロウロ〜カル・クルーも大きく頷いていたようです。また、継続して音楽活動もされていることなど公私混ざった楽しいエピソードを聞くことができました。
賃貸なのにDIYで自分好みに改装できる団地
充実したレクチャーの後は、区役所のすぐ北にある千島団地の見学へ。千島団地は1970年代に建てられたUR(当時は日本住宅公団)の高層団地。築50年と古い団地ですが、さすがURさん、よく管理が行き届いていて、レトロながらもとても綺麗な印象。
そして何よりも特徴的なのは、2236戸(!)全てDIY可能であることです。賃貸住宅は退去時に元の状態に戻す(現状回復義務)のが普通ですが、URにはその原状回復義務を免除した「DIY住宅」という賃貸プランがあります。筋原区長時代に、巨大な千島団地の入居率をあげて人口を増やしたい両者の思惑が一致、筋原区長からの働きかけで輸入壁紙を軸とした空間づくりを行う「壁紙屋本舗」も加わり2016年にTAISHO★UPプロジェクトを開始しました。このプロジェクトの目玉として全戸「DIY住宅」をPR。また、団地の1階に「KABEGAMIYA HONPO LAB」をオープンし、壁紙など内装のショールーム機能に加えて、DIYの相談や実際に作業ができる工房スペースも設けられ、入居者のDIYのハードルをぐっと下げています。
いくつかのモデルルームを見せてもらうことができましたが、どの部屋もとても個性的。賃貸でも自分たちの好みの部屋にできると思うと夢が広がりますね。実はDIY住宅化については、当初は全戸まではする想定はなかったということですが、築50年を超えるレトロな団地だからこそ、住む人の手によってアップデートされて魅力的になる可能性がある気がします。
築65年の長屋をリノベーションしたメイキン&るつぼん
千島団地の次は住宅と町工場の中に現れる、文化住宅(長屋)をリノベーションした「ヨリドコ大正メイキン」と「ヨリドコ大正るつぼん」を訪問。このリノベーションプロジェクトは、築65年の文化住宅「細川住宅」に漫画家でありイラストレーターの神吉奈桜(かんき なお)さんが住みつき、個人でリノベーションや活用をしようとしたところからスタート。神吉さんが一人ではどうしようもできずにSNS上で「HELP!」を発信したところ、手伝う人が現れ始めたました。さらにそこに筋原区長も駆けつけたことで、プロジェクトの輪が行政も巻き込みながらさらに広がり、クラウドファンディングを経て南棟がシェアアトリエ・店舗(1F)兼住居(2F)の「ヨリドコ大正メイキン」として2017年にオープンしました。
神吉さんのもとへ、筋原さんがかけつけたのはもちろん大正区民が困っていたらから、なのですが大正区ではちょうどこの時、各地で行われていたリノベーションスクール1を参考にしながら、補助金ではない空家活用の支援をしたいと考え、「まちづくりキャンプ@大正区」というプチ(パチ?)リノベーションスクールの実施や、空き家活用相談をワンストップで行うWeCompassという民間団体立ち上げていたとのことです。出会うべくしての出会いだったのですね。
その後、北棟が店舗や福祉事務所がはいる複合施設「ヨリドコ大正るつぼん」としてオープンしました。ここでお茶やおやつを買ってたのですが、10人オーバの同時来客で、お店の方をてんやわんやにしてしまったようです。そんな中、常連さんがオーダーを勝手に手伝ったり、お店のおばちゃんが早く注文が通る白玉を「内緒やで」とこっそり順番をとばして提供してくれたりと、ここは肩肘張らずでほっこりする時間を過ごせる場所なんだなと実感。
「水辺で遊ぶ」を引き継ぐタグボート大正
最後は大正駅からすぐの尻無川河岸に、水上に浮かぶフードホールを持つ複合施設「タグボード大正」へ。この場所は河川のため法律によって商業活動ができず、以前は立ち入り禁止になっていました。しかし、目の前にある大阪ドームという巨大な集客施設に、駅から素通りされるのはもったいないということで、特区認定を行い、大正区の持ち味である水辺を有効活用して訪れる人の受け皿となる施設を目指したそうです。特区申請からオープンまで様々な障害があったそうですが、筋原さんも含めた多く関係者の努力でクリアしていきました。そして2020年にオープンした後は、おしゃれなだけではなく、大阪の尖ったカルチャー空間として注目を集めています。
テーブルがドラム缶だったり単管パイプなのが無骨でかっこいい。
実は、大正区には山崎勇祐さんという、水辺で遊ぶ達人であり、現在活躍するまちづくりプレイヤーにも大きな影響を与えた水都大阪の先人がいました。尻無川には山崎さんが個人的な遊びとして始めた、SUNSET2117というボートハウスバーがありましたが、本格的な店舗としてはやはり法律上の問題で継続が難しくなったそうです。しかしなんと、そのSUNSET2117は現在このタグボート大正に入居して営業中。山崎さんが開拓した大阪の水辺で日常を遊ぶスピリットがこの場所に受け継がれていると言えます。タグボート大正はテナント収益で運営が賄えており、運営が軌道にのれば、さらに拡張可能な設計になっているとのこと。今後の展開も楽しみな場所ですね。
今回は、区長でありながら自分の足で歩き周りまちづくりを進めてきた筋原さんに現地を案内してもらうことで、それぞれの場所のストーリーを理解しながら実際の場所を体感することができました。大正区には商店街や町工場など生活感溢れる場所もたくさんありそうなので、さらに違う角度からまちを歩いてみたい。
- リノベーションスクールは実際の空き店舗や空家を題材に、短期間で活用事業プランを作成しその後の実現までを目指す実践型ワークショップ。リノベーション/まちづくり界隈の名だたる方々がスクールマスターとなり、現地のキーマンがユニットマスター(グループリーダー)となるのが特徴です。 ↩︎
記事を書いた人たち
記録・報告:タカミ、さとみん、ざっきー
編集・執筆:ツツイ