左京区ネオアンティーク界隈を歩く

左京区ネオアンティーク界隈を歩く

2023年10月、日本有数の観光地であり学生のまちでもある古都京都で、左京区一乗寺〜下鴨エリアをまち歩きしてきました。

今回のまち歩きマップ

ハロー互助会

今回は、某自治体職員の有志による勉強会グループ「互助会」のメンバー3人に案内してもらいます。勉強会といっても、法律や先行事例の研究をする固い感じではなく、各自がまちの面白い活動に参加しながらリサーチを行ったり、様々なレイヤーの人たちと対話したり、仕事としては手を出せないけど、やりたいとことへのもやもやなどを共有しているコミュニティです。公共/行政について考えるZINE「hum(ハム)」も発行するなど、参加メンバーのカルチャー感度が高いのも特徴で、数ヶ月前に初めて出会い、すぐに意気投合しました(と少なくとも私は思っています!)。

互助会が発行したZINE「ハム VOL.0」まちの銭湯から元つくば副市長へのインタビューまで。

叡山電鉄一乗寺駅で互助会と待ち合わせ。四条河原町などの中心地から北東に少し外れたこのエリアは大学生が多く住む場所です。ただし大学生の中でも「キラキラ」ではなく「いぶし銀」な学生が多いとのこと。というのも、周辺にある大学が京都大学、京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)、京都工芸繊維大学、京都精華大学という個性的というか、クセのある面々。ややこしいので詳細は割愛しますが、私もかつて上記大学の内の2つに在籍しており、数年間を一乗寺で過ごしていたのでした。どうもお久しぶりです一乗寺。

この日は、一乗寺フェスという、地域の商店会が中心となったまちを挙げてのお祭りが行われており、駅周辺とその近くの商店街から公園にかけて、ちょっと早いハロウィーン気分のちびっ子たちと大人で賑わっていました。

集合場所の近くの自転車屋さんにあったレトロな空気入れ。手軽で便利だけど有料です。使ってみたい。

左京区カルチャーのランドマーク恵文社

まずは、駅からすぐ北にある一乗寺商店街へ。左京区カルチャーの象徴的な書店である恵文社一乗寺店を訪れました。一乗寺フェスの影響もあってか店内にはたくさんのお客さん。広い店内の中、何気なく見渡すと気になる本が目に飛び込んできます。油断すると時間があっという間に溶けそうなので、京都っぽいZINEを一冊だけ反射的に購入して脱出。雑貨店とギャラリーも併設されており、本気を出せば半日過ごせそうです。

10年以上ぶりの恵文社。建物を見て「ゲタ履きビル(1階が店舗の集合住宅)だ」と思うようになった自分の変化に気づきました。

次は同じく一乗寺商店街に最近オープンしたという「みん図書momokuri」へ。「みん図書」とは本棚一マス分のスペースを、様々な人がレンタルして自分の本を利用者に貸し出す一箱本棚オーナー方式の民間図書館です。静岡県焼津市の「みんなの図書館さんかく」が発祥で、現在全国に50を超えるみん図書が登録されています。https://sancacu.org/library

のれんが可愛いですね。豆×本。

momokuriさんは、2022年の11月に珈琲豆を販売する焙煎処桃栗と併設する形で開店されました。確かにコーヒーと本は相性がいい!この日も大学の先生が珈琲を飲みながらお勉強をされていました(京都っぽい)。棚に置かれてた本を見れば、その人がどんなことに関心があるか分かるし、一箱オーナーになるとイベントスペースとしてこの場所を借りることもできるため、発信と交流の場にもなるそうです。何より気さくになんでも話してくれるmomokuriのオーナーさんの人柄によって、人が集まるハブになっているようです。

一箱ごとにオーナーがいます。団地みたいで好きな光景。
かわいいカップ。
焙煎処桃栗さんはコーヒーの種類が豊富で選ぶのも楽しい。ドリップパックだけでなく豆も購入できます。

新しい古道具屋itou

次は互助会高橋さんイチオシの古道具さんへ向かいます。途中で寄ったリサイクルショップ「アーク」は京都市内でも(倉庫の量が)幅をきかせているらしく、なんとリサイクル発祥の地を標榜しています。すごい、京都ならもしかしてそう(実は創業1500年とか)かもしれないと一瞬思ってしまう。

リサイクルに発祥があるという発想がなかったです。

そして案内されたのは白川通沿にある古道具itou。

マジックで手書き。この時点でただならぬ雰囲気。
テント付きの階段で2階へGO。

外観の趣からしてただならぬ雰囲気を感じたのですが、入ってみると現代アートギャラリー?いや、これはアートなのか?セレクト系の古道具屋さんということですが、どこでどうやって探してきたのか想像できないものばかり並んでいます。実用性より個性全振り。どんな人が買うのだろうと、店主の伊藤さんのお話を聞くと、例えば個人でお店をされている方がお店に置くために買っていくそうです。なるほど、確かにお店に個性を出したいときには間違いない品揃え。伊藤さんはこの界隈の大学に在学中にお店を始められたとのこと。クセ強め学生・元学生が多い場所だからこそ存在しているお店かもしれません。

気になるものしか存在していない空間。
小学生の図工作品のようだが、人の目を引きつける力が確かにある(ガオー)。

一乗寺を横断しながら路上観察的雑感

ここで道を折り返して東へ向かいます。その途中で出会った親水系純粋階段が素敵な公園付近から、用水路に沿って私橋(わたくしばし)のデパートとなっていました。プライベート橋ならではの様々な工夫や園芸に(私は)とても盛り上がりました。他のファンローカルメンバーと互助会のみなさんもこういった物件の良さ(とそれに盛り上がる私)に理解が深く、とてもありがたい。これからも仲良くしてください。

純粋階段でありながら辿り着くことが難しく観賞に特化している。
わびさびを感じさせる木訥とした無用階段。
鉄板、コンクリートブロック、レンガ、木材、緑と様々なマテリアルが絶妙に配置されています。
強風で倒れた自転車をなおす互助会。さすがです。

一乗寺駅近くの線路沿いに「ニハ」という露天の無人本販売所がありました。露店にしては本の状態がとても良く、しっかりと管理されてるか、回転率がよい(たぶんその両方)ように見受けられます。無人で成立しているのこのエリアのゆるさなのか、脇に鎮座するお不動様(悪いことをすると呪われそう)の効果か…。

不届き者がいないか目を光らせるお不動様。
結構な蔵書量。そして代金入れとポストを兼ねている…?
クオリティの高い鉄腕アトム。

叡山電鉄の線路を渡り、さらに西に歩き東大路通りを越え、大原通りも越えたところで、ウロウロ〜カルの好物である路地路地ゾーンを発見。

線路を越えたあたりで見つけた荘3兄弟。ペアのアパートも可愛いし、その隣の渋いアパートも不思議と一体感があります。
一旦通り過ぎましたがただならぬ雰囲気に呼ばれて引き返した路地の入り口。門柱っぽいものの存在が謎です。
路地の途中にあった道標と思われる石柱。写真では見にくいですが「みぎ嵐山」「ひだり苔寺」と書いてあるようです。元々この場所ではなく嵐山付近にあったものだと推察されます。なぜここに移設されたのか。謎過ぎる。

下鴨文化的カオスタワー葵ビル

鴨川の支流である高野川を渡って下鴨エリアへ。江戸時代までは下鴨神社の領地だったため、住宅が増えてきたのは近代以降。北大路に沿ってしばらく行くと、今回のツアーのメインの1つ、葵リサイクルショップに到着しました。

赤いレンガタイルに和風な玄関装飾。只者ではない。

葵リサイクルショップは、オーナーの「おばちゃん」がご家族と運営されています。30分ほど見学しながらおばちゃんのお話しを聞かせていただきました。互助会の高橋さんから、「お店のカオスさ、店主のおばちゃんの懐の深さ」がポイントと聞いており、端的にはその通りだったのですが、強度というか、規模のでかさが予想以上で、とても今回の滞在時間ではその全てを把握することができませんでした。なんとか分かったことを箇条書きにしてみます。

  • リサイクルショップの商品/不用品の物量によるカオスだけではなく、ビル全体のカオスさである。
  • おばちゃんは誰かの思いが詰まった物が捨てられていくのが忍びなく、家が壊される時などにどんどんと引き取ってしまう。その結果、物が際限なく増えていき、ビル全体が物(商品/不用品)で埋め尽くされつつあった。
  • 互助会メンバーの高橋さんともう一人が、商品/不用品の片付け・整理を手伝いまくって、ビルの中に使えるスペースを確保しているところ。
  • 最上階の奥には舞台セットの森が結構な奥行きを持って存在しており頭が混乱する。
  • 舞台は今はたまにコスプレなどの撮影に使われるらしい(どこで知ってどうやって申し込むのだ?)。

おばちゃんはかなり行動力があり、文化的な造詣も深いようで、どんどんと情報が出てきます。そしてその度に次の謎が生まれる。懐が深いどころか底が見えない。

両隣が空いていることで際立つ存在感。
物が溢れてて入れない半地下1階のリサイクルショップ。
最上階の5階は「葵文化サロン」という多目的スペース。急におしゃれな空間が現れて度肝を抜かれました。
アンティーク品が所狭しと並びます。演劇の小道具として貸出もしているとのこと。
現在葵文化サロンは主におばちゃんとお茶するスペースとして使われています。優雅だ。
この絨毯もデザインが秀逸で素敵でした。
舞台の大道具と部屋の建具の境目がなくなっている。
絵に描いたようなアンティークショップ感。レコードもいい音で聴くことができました。
ビルの中にある森のセット。流木を運んできて組んだらしいです。(???)
ドクロを足してハロウィン仕様にしたらしいです。(????)

かなり衝撃的なおばちゃんと物件に出会ってしまった。文化を大切にしたいという気持ちと、葵ビルという場所が合体してえらいことになっています。

洛北が一望できる屋上。五山の送り火を見ながらバーベキューもできるらしい。呼んで欲しい。

もう1箇所おばちゃんが管理している(物置になっている)お店があり、そこで私たちに見せたいものがあるということ。後ほどまたそちらに寄ることにしていったんお別れしました。

学び合う人が集う洋館下鴨ロンド

葵ビルと同じ下鴨に、互助会の今回もう1つの推し物件である「下鴨ロンド」という洋館があるとのこと。途中ヌルッと曲がる路地を抜けていくところから期待が高まります。ロンドは「舞踏曲」ではなくエスペラント語で「集い・サークル」といった意味とのこと。

下鴨ロンドは和洋折衷の洋館です。個人宅として建てられ2023年時点で築91年。空き家になって暫く放置されていたところ、京都で建物の研究・保存・活用・看取りなどをされている本間智希さんが、直接持ち主からお借りして、仲間を集め、改修しながら研究者の共同スペース兼シェアスペースとして最近使われ始めた場所。互助会のメンバーもその仲間に入っています。外観も立派なお宅ですが、中に入った瞬間、空間の気持ち良さが肌に伝わってきてため息が出ました。順に部屋を見せてもらうと採光の多さや、天井の高さ、タイルの使い方や建具など、とても丁寧に建てられた家であることが分かってきます。

光の入り具合、板張りの床が心地よい。ここで語らいたい。
抜群にかっこいい本棚は当時からの作り付けだそうです。
階段室の窓、天井の意匠、ライトの和洋折衷で統一感のあるデザインが素敵。
流し場の型板ガラス。少し暗めなのもいい雰囲気。
ずっと眺めていられるタイルの絶妙な色。

この家の歴史を紐解くと、最初の家主だった方が近隣の学生が勉強するために集う場所としても開放されていたということで、今まさに本間さんたちが取り組んでいることとも重なります。ゲニウス・ロキ(場所の記憶的な概念)だ。家の補修も、様々な場所でレスキューされた部材を利用しており、しっくりこの場所に馴染んでいて最高でした。

懐かしい感じのトイレの床タイルもオリジナルではなく補修したものとのこと。良い仕事!

持ち主の方からは10年間の契約で借りており、まずはこの家の100歳をみんなで迎えることを目標にしているとのこと。是非また訪れたいし、滞在してみたい、100歳の記念のお祝いが楽しみ(参加したい気持ち)な、とても魅力的なお家でした。

時を経て、再び学びの場として活かされていきます。

互助会情報によると、最近ものが捨てられるのがほっとけない葵ビルのおばちゃんと、家が壊されていくのがほっとけない本間さんが繋がって、当然意気投合したとのこと。果たしてこの化学反応がどうなるか楽しみです。

葵のおばちゃん再び

下鴨ロンドをあとにして、先ほど葵のおばちゃんと約束した地点で合流。私たちに見せたいものというのは、90歳を超えたおばあちゃんが織った大量の手織マフラーでした。おばあちゃんが亡くなったときに、処分されるのがどうしても忍びなくて葵のおばちゃんが引き取り、手織の衣類などと一緒に販売するイベントを行ったとのこと。「だいぶ売れて、もう元はとったから、好きなのがあれば持ってってや〜」とワンコインで残ったマフラーを譲ってくれるそうです笑。

このお店もカオス化が進んでいます。
マフラーをDigるみんな。
それぞれのお気に入りをゲット。
みんなでマフラーを装着。あったかい。

この日はお昼過ぎからから急に冷え込んできたので、防寒にもばっちり。ウロウロ〜カルの史上でも指折りのほんわかタイムになりました。

お風呂屋さんで最高のゴール

そしてそのまま北大路をさらに西に数分歩き、今回のゴールである鴨川湯に到着しました。京都には、「銭湯を日本から消さない」をモットーに廃業寸前の銭湯を再建して地域に開いていく、ゆとなみ社という会社があります。京都で梅湯、源湯、神戸でも湊河湯などの再生・事業継承を行っています。鴨川湯もそのゆとなみ社が手がけ、2023年7月にリニューアルオープンしたばかり。

北大路通りを歩いているとお風呂屋さんの光が目に入ります。
オレンジと緑の光が映えてる。
実はスタート直後に恵文社で購入したZINEは、ゆとなみ社が発行する「梅湯マガジン」でした。個人的伏線回収。

訪れた日は古着屋さんのポップアップが出店していたり、この時期に開催されていたAmbientKyotoという音楽イベントと連動した企画として、コーネリアスが選んだプレイリストを流したりしていました。銭湯でありカルチャースペースになっているようです。

鴨川湯の壁の一部には下鴨ロンドを運営する本間さんが各地でレスキューしたタイルが使われています。自転車越しのタイルミュージアム。
鴨川湯は大正15年創業。この年月が染み込んだ場所は残したいですよね。

銭湯は常連さんに気を遣って、新参者は入りにくい雰囲気がありますが、こうやってカルチャー要素を取り入れることで敷居が低くなります。そしてなにより1日歩いたあとのお風呂は最高に気持ちいい。お風呂がそんなに好きではない私でもそう思うので間違いないです。

再見互助会

今回は一乗寺から鴨川湯までほぼ真一文字のまち歩きとなりました。互助会メンバーそれぞれの興味があったり関わっている場所を紹介してもらったことで、歴史的な京都のイメージとはまた違った、アカデミックな時間の積もり方を感じつつ、古道具や古い建物といったまちの記憶/残されたものを大切に活かそうとする蠢きに触れることができました。何よりも、案内してくれた3人の今回巡った場所それぞれで会った人と話すときの自然な距離感、鴨川湯でもうすぐ行われる避難訓練にスタッフから誘われたときの嬉しそうな反応などから、まちに入り込んでいくのを軽やかに楽しんでいるのが伝わってきました。なんて気持ちのよい奴らなんだ…また早めに再会したいぜ、と密かに思いながら北大路駅から帰路についたのでした。

途中の駅まで見送ってくれました。また遊びましょう。

オススメのお店情報
itou
京都府京都市左京区一乗寺出口町7 2F

葵リサイクルショップ
京都府京都市左京区下鴨東本町11−3

鴨川湯
京都府京都市左京区下鴨上川原町56
営業時間:14時〜1時
定休日:火曜日