2023年1月、奈良県生駒市の生駒駅から生駒山周辺をまち歩きしました。
今回のまち歩きマップ
今回のまち歩きにはお題があります
今回のまち歩きはウロウロ〜カル初の奈良県!生駒市職員の森さんに案内してもらいます。生駒市は大阪の中心部から電車で30分ほどという便利な立地のベッドタウン。森さんは以前民間の会社で働かれており、そのときはまさに「寝に帰るまち」だったそうです。しかし、あるきっかけで地元が欲しくなり、プライベートでCode for IKOMAというIT系の市民活動に参加したり、生駒の歴史を調べるうちに公務員に転職。市役所職員となってからは、前職の経験を活かしたIT関連の業務や、魅力発信の仕事もされています。
そんな森さんいわく「今は大阪のベッドタウンとして知られる住宅都市、生駒。その成り立ちをご存知ですか?」確かに、大阪から生駒に来る時に乗った電車は、生駒山に向かって急な勾配を上り、トンネルを潜ってきました。こんな路線を作るのはかなり大変だったはず。生駒を抜けて奈良に向かう路線ができた理由があるってことでしょうか?そして、その謎の答えは今回歩く生駒山にあるようです。(ブラタモリみたいで)わくわくしてきました!
生駒駅に集合して、まずは生駒山を登るケーブル駅の見える場所で、森さんから説明を聞きます。
生駒山には「聖天さん」として古くから近隣で親しまれてきた宝山寺があり、かつては麓からの長い参道が参拝客向けの商店で賑わっていました。そして近代になると生駒ケーブルが開通、さらに自動車での移動が主流になると、参道界隈の商店街としては寂れていったとのことです。
そしてここでもう1つお題が出ました。生駒ケーブルの発着駅は「鳥居前」ですが、その鳥居は道路の拡幅工事の際に障害物となったため、撤去されています。しかし、実は今もどこかに移設されているとのこと。
駅前商店街周辺でかわいい昭和を探します
なるほど!じゃあ、早速生駒ケーブルに乗りましょう!というわけではなく、まずは生駒駅前周辺のまちを歩いてみます。駅南の商店街は短いながらも立派なアーケードがあり、少し脇に逸れるとかつての公設市場の跡など、「昭和」の名残を見つけることができます。
生駒山にへばりつく住宅街の隙間を
駅前の商店街を抜けたら、バブルかつレトロな雰囲気を醸し出す銭湯を起点に、生駒山の傾斜にへばりつくように開発された住宅地の探検に突入。生駒駅周辺は生駒川による谷地形となっており、平坦な土地がほぼありません。そこに住宅地を形成したということは、とにかく斜面地に工夫して…というか、無理やり住宅地をつくったことで(多分初期は民間による無計画な開発だったのではないでしょうか?)、複雑な路地かつ坂道&階段がひたすら続きます。わーすごい(語彙喪失)。
住宅地を彷徨っていると、突然ケーブルカーの踏切に出会ったりします。生駒ケーブルは2000年に導入されたファンシーな車両で地元の方や好事家から親しまれていますが、実は日本初のケーブルカーであり、住宅街を通るために、観光のみならず通勤・通学の足であり、踏切もあるという珍しいケーブルカーなのです。
傾斜に合わせた段々になっている集合住宅が並ぶ、地形とベッドタウンという条件によって生まれた個性的な景観が広がっていました。ぐるぐると高低差を楽しみながら降りてくると、なんと路地の入り口だった銭湯に違う場所から降りてきました。なんという完璧なまち歩きコース!と、感動を覚えました。たっぷりと高低差のある住宅地を楽しんだ後は、いよいよケーブルカーに乗って宝山寺を目指します。
日本一ファンシーなケーブルカーに乗って宝山寺へGO
鳥居前駅から、先ほど遭遇した踏切を越えて宝山寺駅まで約5分ほどで到着します。ここからさらに乗り換えると、生駒山上遊園地まで上ることができます。ただし、この日は遊園地は冬季休業中のため、乗車する人はまばらでした。
宝山寺駅を降りると、往年の観光地といったいい塩梅の街並みですね…、と思いきや主張の強い「観光生駒」のゲートに遭遇、これは一筋縄ではいかない場所の予感。閉まっている旅館や占い屋さん(さすがパワースポット)などに混じって、最近のセンスを感じるシュッとした物販や飲食店などもちらほらありました。これは結構楽しめそう。
予想以上に観光気分が盛り上がってきたところで、エキゾチック・ジャパンな参道に突入します。寂れているどころか、パワーをビシビシ感じる空間に高揚を覚えながら登っていきます。
そして階段の先に大きな鳥居が見えてきました。そう、これが駅前から道路拡幅時に移設された鳥居です。でかい。よくこんな大きくて重いものを解体してここまで運び上げ、再度建て直したなと驚くばかりです。
圧倒的現世利益パワー
鳥居をくぐると、宝山寺の境内に入ります。予想以上に広い、広いというか立派な建物がいくつもひしめきあっていて圧倒されます。初詣にはかなり遅い日でしたが、参拝されている人もかなりたくさんいました。やはりケーブルカーではなくて車で来る方が多いようです。
実は、宝山寺こと「聖天様」は商売繁盛をもたらすお寺としてその筋ではとても有名な寺院ということです。知ってましたか?私は全然知らなかったです…。そのため、昔から特に大阪で商売をする方が多くお参りをされるそうです。そして、仕事がうまくいけば、そのお礼としてお寺に寄進をします。境内は現世利益を求める、一種ギラギラした独特の雰囲気があり、とてもおもしろかったです。
本堂からさらに上り、奥の院に向かうと、何百というお地蔵様が並ぶ静謐な空間を通ることになります。ただし、ここにもお地蔵様ひとりごとに賽銭箱が置かれており、入り口で硬貨を1円玉に両替して1円ずつ入れていくというお参りの様式(システム?)がありました。すごい。現世利益。
ここでお題の回収
宝山寺への信仰は、江戸時代から盛り上がってきたとのこと。しかし、大阪からの参拝は生駒山の裏側にあたるため、大きく回り込む必要がありました。明治になり近代化が進む中、大阪から奈良へ生駒山をトンネルで抜けて鉄道を敷設する計画が立ち上がりました。計画立案時に、宝山寺の場所がどのくらい意識されていたかはわかりませんが、生駒山をぶち抜く大規模な工事には多額の費用がかかり、開発事業者である鉄道会社(今の近鉄)の資金が枯渇の危機に陥った際に、宝山寺が資金提供を行いなんとか開通に漕ぎ着けたそうです。おそらく、宝山寺としても鉄道が通ることで、参拝客の利便性が高まることは念頭にあったと推測されます。宝山寺へのケーブルカーの開設は、このときのお礼の意味もあったとも言われています(諸説あり)。
つまり、生駒山の谷間の地が、独特な住宅地として開発されたのは、大阪の商人から篤い信仰を集める聖天さんの存在がとても大きな役割を果たしていたというです。なるほどー。がってんです!(ガッテン)
そして大ダウンヒルで追い込まれます
森さんから出された問題もすっきり解決、聖天さんからパワーも貰い、さあ、あとは下山するだけとなりました。しかし、ここで森さんから「帰りはケーブルカーは使わずに参道を歩い降りていきましょう!」という衝撃の発言。ここまで結構なアップアンドダウンを繰り返してきましたが、ここからひたすらダウンヒルです。
ひたすら続く階段階段階段階段階段…。しかし、確かに参道ギリギリまで民家が迫っていることで、民地にめりこむ石灯籠や、難易度高めの駐車スペースなど絶景に出会う事ができました。駅前まで戻ってきたころには、すっかり膝がガクガクでしたが、予想ができないワンダーがいっぱいの生駒まち歩きを楽しむことができました。
生駒駅前を出発して約4時間、レトロでかわいい商店街から、斜面の路地をすり抜けて横目にケーブルカーが見えた住宅街の散策、そのケーブルカーに乗って観光生駒から宝山寺の絶景と、上がったり下がったりしながらタイプの違う見所がもりもりのまち歩きでした。すごいぞ生駒。