宝塚の駅まえまちまち歩き

宝塚の駅まえまちまち歩き

2022年10月、宝塚市を阪急今津線に沿って小林→逆瀬川→宝塚南口→宝塚駅まで歩きました。

今回のまち歩きマップ

宝塚の中心市街地とは?

今回のウロウロ〜カルは、生まれも育ちも居住も宝塚市、大学時代に経営学の勉強の一環で商店街振興のためのEコマース(ざっくり言うとネット通販)にかかわったことをきっかけに、現在はIT系まちづくりデザイナーとして日本各地の地域・自治体支援をしている榊原倫貴さんに宝塚を案内してもらいます。

宝塚といえば、もちろん宝塚歌劇団。阪急電鉄(当時の箕面有馬電気軌道)が沿線開発にあたり、ターミナル駅に人を呼ぶため新たに温泉付き保養地を開発し、エンターテイメントコンテンツとして劇場付きの劇団を作ったことは阪神間の近現代史を学ぶと必ず聞く話です。そして、品の良い方たちが多く住む、いわゆる文教都市というイメージ。榊原さんに事前にお話を聞くと、「中心市街地」の移り変わりを見せてもらえるそうですが…「中心市街地」ってなに?宝塚の中心地ってことでしょうか?それならやはり、宝塚大劇場などがある宝塚駅じゃないの?

今回のまち歩きのあらましを話してくれる榊原さん。IT系らしく、ネット上に資料を作成してくれていました。

ダイヤモンドクロスのトラップを乗り越えて

まち歩きの集合場所は宝塚駅阪急線の宝塚より3つ手前の小林駅。集合時間に遅れるという連絡がメンバーから次々に届きます。小林駅にたどり着くには、西宮北口駅で神戸線から今津線に乗り換えることになるのですが、そこでみんな反対方向に乗ってしまったとのこと。実は今津線は、今津-西宮北口間と、西宮北口-宝塚間が分断されているためホームが別々になっており、神戸線から降りて最初に目に入る今津線の誘導看板に従うと、今津方面のホームに降りてしまという初見殺しのトラップが…。ちなみにかつては、今津線は分断されておらず、神戸線と直角に交わっており「ダイヤモンドクロス」と呼ばれていました。

小林駅はやや斜面地にあり、農業用のため池の上に駐輪上がありました。無駄にかっこいい。
ロゴデザインもたたずまいもいい感じの駅前の商業ビル。階段のテントのカーブが特にぐっときます。
幾何学的な形の組み合わせがやたらカッコ良い、駅前の下駄履き(1階が店舗)マンション。

小林とかいて「おばやし」です

始まる前からトラップにひっかかりながらも、小林駅周辺の散策スタート。そして、この小林は「こばやし」じゃなくて「おばやし」と読みます。これまた地味な初見殺しの難読駅なんです。小林駅の近くには阪神競馬場があり、その場所にはもともと軍事工場がありました。戦前、この周辺は工場で働く労働者のまちだったのです。小林駅前は労働者たちでにぎわう飲み屋街としてまちがつくられていき、今も飲食ビルがいくつもあります。同じ時期に整備されたのか、ほとんどのビルが半地下構造&レンガタイルというスタイルでした。確かに、半地下ってなんかワクワクしますもんね。さらに駅から東に歩くと、文化住宅が目に入ります。そう、小林は下町なんです。ハイソな宝塚さんにもこんな親しみやすい一面があったんだ!とギャップ萌えです。

滑り止めもつけて頑張ったけど、やっぱり使用不可になってしまったスロープ。
いい角度の焼肉屋さん。看板がスケルトンになってるけどこれはこれでかっこいい。
半地下にあった素敵なステンドグラス。
香港映画に出てきそうな吹き抜け、かわいい床タイル。全てにロマンがありますね。
「みなみ荘」の看板文字がいかすアパート。
鋭角な部分の内部はどうなっているのか、どういうつもりでつくったのか気になります。

古いものと新しいものが組み合わさった小さなリノベーションタウン=INNO TOWN

そのままズンズン東へ歩いて行くと、ちらほら田んぼも見えてきました。なるほどこういうのも(宝塚には)あるのかと思っていると、一際目を引くタイル&庇の独特なファサードの長屋に遭遇。なんだこれは!と興奮する一行。オシャレげにリノベーションされた複数の長屋と、新築の集合住宅を組み合わせてたINNO TOWN(イノタウン)というエリアプロジェクトだという解説を榊原さんから受けました。地元の不動産会社とデザイン会社が手を組んで約10年前から今も進行中のプロジェクトだそうです。それぞれの建物は住居+店舗になっており、導線も気持ちよく設計されています。

レンガタイルが庇までシームレスに覆っているのがユニークな長屋。
INNO TOWNは5棟の建物で構成されています。上のレンガタイルの長屋はLODGEという棟。

そして、「ブックスアルペジオ」という本屋さんが入居されているのを発見!本屋好きとしてはぜひ行きたい。しかし他のメンバーは、ここで折り返して駅側に少し戻ったところにある、創業60年の百合珈琲さんで一服するとのことで、むむ、そちらもとても魅力的…。でもやはりここは本屋さんに行きたい気持ちを大切に、みんなとはいったん別れてブックスアルペジオさんにお邪魔することにしました。看板に従って階段を上がり、そーっとドアを開けるとアパートの一室のこぢんまりとしたスペース。書籍以外に本にちなんだ雑貨なども取り扱っていて、本好きの友達の家に来たみたいで(行ったことないけど)とても落ち着きます。そして、小林というマイナー駅から徒歩15分の場所で本屋をやっていくんだという、静かな強い思いを勝手に想像して胸が熱くなりました。

音を響かせて駆け上がりたいタイプの階段。
アパートの一室という、入り辛さ解消のためか、めっちゃオープンアピール。お邪魔します。
素敵な店内でした。また来たいです。

アルペジオさんを出て、百合珈琲でウロウロ〜カル本隊に追いつきました。店内もおしゃれでコーヒーもおいしいということ。そして、店の裏に吸引力が高い水路を見つけてしまい、また本体と別れて行動。芸術的なDIY水上駐輪スペースを見ることができました。

創業62年(!)の百合珈琲さん。飲みたかったです…。
バイクが浮いてる!とかいいながら水路に吸い込まれていく人(私)

阪急鉄道と並走する街道

阪急の線路のやや東を並行して続く、良元(りょうげん)街道沿いに北上して逆瀬川駅に向かいます。宝塚市は、武庫川を挟んで左岸の宝塚町と右岸の良元村が合併して誕生しました。街道の名前も合併前の良元村から由来しているのでしょうか。今昔マップの明治初期の地図で、西宮街道と記載されている道と同一と思われます。

良元村の道路元標(大正時代に自治体ごとに設置された道路の距離を測る起終点。自治体庁舎の前や主要街道の交差点などに設置されることが多いらしい。)

さて、この旧街道は、恐らく古い道の姿がほぼ残っており、拡幅されてなくてぐねぐねしています。それなりに車の交通量もあるので、運転者にとっては不便で、歩行者としてはやや危険も感じますが、味わい深い道であります。暗渠化した水路や、敷地の広い農家と思われる蔵付の家屋、神社があり、古い集落の中心なのがよく分かりました。

蔵と水路。ここ以外にも宝塚の広報版は掲示物が整然と貼られていました。
DIY感が高いコンクリートブロック造の地蔵尊もありました。

逆瀬川はかつての武庫川右岸の中心地

逆瀬川駅に到着しました。駅の西には逆瀬川が流れています。六甲山系の東端である甲山(かぶとやま)から北上して武庫川に流れこんでおり、「川は北(山側)から南(海側)へ流れる」ことが身に染みている阪神間生活者としては混乱が生じます。 逆瀬川の名前の由来も、この流れの方向に由来するという説もあるそうです(が、増水時に逆流するから説の方が有力だそうです)。逆瀬川駅周辺は、山間部から大阪など平野の都会への入り口となる交通の要所でした。榊原さんによると「いきなり都会に出るのはちょっと怖い田舎者が滞留する場所」だそうです。なるほど、地方育ちとしては、その感覚なんとなく分かるかも。

駅の北側には旧良元村役場があり、昭和40年代(1960年代後半ごろ)までは昔ながらの商店が集まる武庫川右岸地域の中心だったということです。防災や機能的な観点から駅前の現代的な整備が検討される一方で、1973年に小林に大型商店のイズミヤが、翌年には一駅先の宝塚南口駅に駅ビル(サンビオラ)が開設し、商業の機能が分散、地域の商業的中心としての機能が低下していくなかで、逆瀬川周辺の再開発事業はスタート。1987年に核となる駅前施設としてアピア1・2・3が開業しました。同じ名前の再開発ビルですが実は運営主体が違い、人の流れが変わって以降は規模も数もトゥーマッチなものになってしまいました。2007年にまちづくり会社を立ちあげ再整備を行い、活性化を図りましたがあえなく破綻。こうやって簡単に書いてしまいましたが、資料として宝塚市が作成したアピア破綻についての報告書を読みながら、どうしようもなく状況が悪くなっていく過程に胃が痛くなりました…。

アピア1前の今はもう動かないピカピカのからくり時計が哀愁を漂わせています。

次の駅までの思わぬ路地ゾーンとモダニズム建築の教会

小さなまちの大きなアピアのいくつかの意味で重い存在感をひしひしと感じながら、さらに線路をたどり次の宝塚南口駅を目指します。駅から逆瀬川を渡ると、リノベーションされた商業ビルが運営しているまちライブラリー小屋(エアコン完備)がありました。宝塚の文化度の高さを感じます。 この周辺は細い道が多く、路地好きとしては興奮しながら案内されていくと、とある路地から出たところに大きな小学校が建っていました。この宝塚第一小学校は、榊原さんの母校だということでした。そしてなんと、路地の写真は撮っていたのに、学校の写真は撮り忘れていました。

黄色が印象的なリノベーションビル。実はINNO TOWNと同じデザインが会社が関わっているようす。
道を挟んで向かいのまちライブラリー。一瞬ハンバーガー屋さんに見えました笑。
いい感じのまち歩きにつきものの、穴埋めクイズの出題。
ドア4連続のインパクト。出入り口が分かれてるので、アパート(共同住宅)ではなく長屋になるんです。
小学校に続くこの細い道を通る歩行者以外のものとは?(自転車が無理くり通るよ派、猫との共生だよ派など)

小学校から少し北の、バラ園踏切(名前の由来不明)から路地を入ると、突然、教会の尖塔が出現して驚きます。近づいていくと曲線的なかなりユニークな姿。 このカトリック宝塚協会は、日本のモダニズム建築の巨匠の1人、村野藤吾設計。村野藤吾は主に戦後高度成長期にかけて数多くの商業・公共建築を手掛けています(そしてどんどんと姿を消しています泣)。キャリアの後半は宝塚に居住していたことから、宝塚市役所やこの宝塚教会など村野藤吾設計の建築物があるということです。建物内も自由に入ることができ、徹底したアール(曲線)、雨樋の優雅さに萌えます。住宅地の中にある文化財級の建築だと思いますが、宝塚に行く時に何回も電車で横を通ってたはずなのに、全然気づいていませんでした。不覚です。

かつて近くにバラ園があったんでしょうか。宝塚(ヅカ)らしさはあります。
民家の中から突然出現してびびりました。
鯨をイメージしたともいわれているそうです。美しいフォルム。
中も素晴らしいので、是非訪問してください。

ここからもう少しだけ歩いたら、宝塚南口駅に到着します。高架下に、レンガ壁が見えたので、近づいてみると恐らく路線開通当時に建てられたであろう、レンガ造の変電所を発見。産業遺産然としてメチャかっこよい 。

レンガ造の変電所。高架に密着してて全貌が捉えらません。
この質感。ほれぼれします。

宝塚南口は古い温泉街

変電所を通り過ぎたらすぐに、宝塚南口駅到着。この駅にも逆瀬川のアピアと同じくらいの立派な駅前商業施設であるサンビオラがあって驚きます。駅の間としては歩いても10分くらいでしょうか。この周辺は古い温泉街として江戸時代から有名な場所で、 一駅隣の宝塚歌劇場などがある左岸側との距離も近いこともあってか、駅ビルとその周辺はそれなりに賑わっているように感じました。とはいうものの、いい感じに時間が止まっている別棟や、きれいにタワーマンションに建て替わってる場所もあり、なかなか味わいがいがありそうです。この時はちょうど、宝塚ホテルが宝塚駅側に移転のため、宝塚南口駅前の旧ホテルの取り壊しが進んでいるところで、ここもまた、まちの中心が移動していく過程のようでした。

駅前商業ビルのサンビオラも時間があれば深掘りしたいところでした。
かわいいビルとパン屋さん。次来るときにも残っていて欲しい。

対岸の新温泉街(宝塚歌劇場)へ眺めがよく、 あえてここで降りて、右岸から左岸へ歩いて渡るのも楽しそうです。近代までは、武庫川で完全に右岸と左岸は分断されており、違う文化圏でした。宝塚市の誕生による合併で現在は1つの自治体となっていますが、その名残は残っていそうです。

宝塚温泉は炭酸鉱泉を生かしたウィルキンソン発祥の地ということでオンリーウィルキンソン自販機。全部売り切れてました。
武庫川を渡るマルーンカラーの阪急電車。さすがに絵になりますね。
武庫川の河川敷は市民の憩いの場になっていました。
この橋の出っ張り空間は立ち呑みスペースにできそうだねみたいなことを話しているメンバー。

かつての遊園地にまちの機能が集約

宝塚大橋を渡り、現在の中心市街地である武庫川左岸に足を踏み入れます。2003年までは宝塚ファミリーランドだった一帯で、往年の宝塚市民には家族の思い出の場所。現在は宝塚歌劇場の他に、前商業施設や手塚治記念館、宝塚市立文化芸術センター、タワーマンション、私立の学校が集積しており、機能が集約されているとも言えるし、文教と商業、住居がモザイク状でかなり独特なまちになっている印象を受けました。

2020年にオープンした宝塚市立文化芸術センター。この日は親子連れで賑わっていました。
宝塚ファミリーランドの痕跡を探して(見つからない)。
宝塚音楽学校の旧校舎。現在は宝塚文化創造館として活用されており、タカラジェンヌの卵の痕跡を見ることができます。
緑化のためかスポンジ状の壁面。へちまの種を入れてみたい。

宝塚大劇場から宝塚駅のエリアは劇場を中心に景観が統一されており、宝塚歌劇のファンでなくても、テーマパーク感があってワクワクしました。タカラジェンヌにすれ違ったりしたら興味でてきちゃいますね。そして、宝塚駅に隣接する商業施設であるソリオ宝塚は1993年に開業、現在もターミナル駅のショッピングモールとしてとても賑わっていました。今回のまち歩きでは食べ歩きチャンスがなかったのですが、ソリオ内のパン屋さん「ふぇるへん」に併設されている「元祖やきもち 河本本舗」で名物のやきもちをゲット!焼きたてでめちゃめちゃ柔らかくて美味しかったです。足りないピース(食べ歩き)を埋めることができました。

さりげなくマンションの屋上のデザインも劇場周辺施設の屋根と揃えてあります。
目的不明の3D錯視壁面。
阪急宝塚駅前。実はソリオも1・2・3と建物が複数ありますが、ショッピングモール機能はソリオ1に集約されています。
河本本舗さんのやきもち。お腹が空いてたため写真をとる前に食べかけてしまっい、ドアップで誤魔化しております。

宝塚の解像度がぐっと上がりました

宝塚を「駅を中心としたまち」の連続という視点で眺めることができた今回のウロウロ〜カル。榊原さんの解説を聞きながら、実際にまちの景色がダイナミックに変わっていく様を味わうことでができ、宝塚の解像度がぐっと上がることを実感。ここからさらに北に向かうと、古くからの信仰の対象で多くの参拝客で栄えた清荒神・中山寺といった寺社を中心としたまちに続きますが、それはまたの機会に。この日は宝塚駅から武庫川にかかる宝来橋を渡りながら今日のまち歩きを振り返って終了しました。

宝来橋はフランスの彫刻家が設計したS字の橋。実用性よりおしゃれさ重視ということでしょうか。
端から北西を眺めれば豊かな自然。
南東を見れば都会に向かう開けた景色を見ることができます。
晩ご飯は小林駅まで戻り、スタート時から気になってた半地下飲食ビルのお好み焼き屋さんで。味も雰囲気も最高でした。
オススメのお店情報
ブックス アルペジオ
宝塚市高司2丁目17–10 karakusa204
営業時間:10時〜17時
休業日:月、金曜日 
鉄板 お好み焼き りょうちゃん
兵庫県宝塚市小林5丁目4−24 ジャルダン宝塚 B1
営業時間:11時~14時、17時〜0時
休業日: 水曜日
元祖やきもち 河本本舗
兵庫県宝塚市栄町2丁目1−1(パン工房ふぇるへん)
営業時間:9時~19時
休業日:水曜日


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