2020年7月、神戸市長田区のJR新長田駅から南側のエリアを歩きました。
この記事は 前編 / 後編 があります。
今回のまち歩きマップ
後編「路地をぐるぐる歩いて海に出た駒ヶ林」
駒ヶ林は古くからの漁村で、前回の近代以降に整備されたエリアとは雰囲気が異なります。昔からの細い路地が入り組み、民家が密集しており長田でもかなり独特。私がこの辺りを初めて訪れたのも、松井さんが長田にかかわるきっかけになった2017年の下町芸術祭でした。この芸術祭は駒ヶ林エリアの屋内・屋外に作品が点在していて、細い路地を迷いながら、ぐるぐる歩き廻り、探していた/いなかった作品が急に現れるのがとても楽しく、芸術祭とこのまちのリピーターになっています。
現在の法律では、防災の観点から家屋は原則4m以上の幅がある道路に接している必要があります。しかし、この地区は古くからの細い路地を活かしたまちを残すために、民家に消火用の取水ポイントを設置したり、防災空地を設けるなど、防災上の工夫をすることで、これまでの道幅を残したまま建て替えができる特例を適用しているということです。この説明を、少し得意気な感じでしている松井さんが、なんだか良かった。
そして、ここからさらに細い道を通って、次の目的地に駒ヶ林にある喫茶店「初駒」に到着。
壁の向こうの話が気になって仕事が進まない
初駒は、築130年の古民家を改装した設計事務所「スタヂオ・カタリスト」の事務所の一角に、地域の人が交流できる場となるように併設されています。ここでは、カタリストで働く若者、上野さんにお話をお聞きしました。
初駒は現在曜日ごとにパン屋さん、コーヒーマニア、カレー屋さんと店主が変わる、シェアキッチンのような形式をとっています。日々、近所のおばちゃんたちがここに集い、談笑をしているのですが、壁一枚向こう側が事務所になっているため、上野さんはその話が気になって仕事が進まないこともあるらしい。
多国籍+おばちゃんのお節介
カタリストは地域に密に関わって、まちづくりも手掛けている設計事務所です。そこで働く上野さんはプライベートでも、駒ヶ林で「たなんぱり」という農園作りの活動を去年から始めており、そこで松井さんと知り合いました。たなんぱりとは、上野さんが、事務所の近くにある防災空地の管理があまりされていなかったのを見て、長田に住むベトナムの方たちと、畑をつくりハーブを一緒に育てることで、交流したいという思いから始めた活動。松井さんはこの活動を知り、荒れていた空地を畑にするための雑草抜きから参加して、今も休日は畑の手入れを手伝っているとのことです。近所のおばちゃんたちも、畑作りを手伝ってくれているそう。この後、実際にたなんぱりの畑を見に行ってみたら、ハーブの他に山椒やナスなど、明らかにおばちゃんセレクトな作物も植えられており(そして、その存在感がでかい)、多国籍文化におばちゃんのお節介が加わったことで、なんとも言えないこの地域の良さが、もわっと出ている気がしました。
ちなみに、聞き慣れない「たなんぱり」という活動名、上野さんが近くに住むミャンマーの方(ここはベトナムじゃないんだ)に、畑をミャンマーの言葉でなんて言うのか聞いたところ「たなんぱり!」と答えが聞こえたことから、この名前にしたとのこと。実はビルマ語で「畑」は「タナルンプ」なので、ちょっと違うのだけど、みんなで作っているこの場所は、「畑」でも「タナルンプ」でもなく、「たなんぱり」なのがいいのだと思う。松井さんと上野さん、初駒で話しているときには微妙な距離があるようにも見えました。しかし、同じ場所に仕事とプライベート両方で関わって行こうとしているところで、ちゃんと通じあっていて、これが2人のいい距離感なのかもしれません。
居心地がとても良い店内と上野さんに名残惜しさを感じまくりつつ、初駒を後にした。路地をするすると海際まで抜け、次の目的地の旧角野邸へ。
2年かけて掃除
旧角野邸は、かつて駒ヶ林の網元だった資産家の角野家の迎賓館だった和洋折衷の建物。現在はアートイベントの企画等を行うNPO芸法が管理をしています。下町芸術祭では展示会場の1つにもなっていました。2017年開催時には、先ほど訪れたDANCE BOXのプログラムもこの場所で行われていたり。旧角野邸につくと、芸法の小國さんが迎え入れてくれました。
小國さんは長田区で活動拠点を探していたところ、先ほど訪れたスタヂオ・カタリストの代表や、廃墟マニアであり産業遺産の活用を行うNPO法人J-heritageと繋がり、当時長い間空き家になっていたこの場所を紹介されました。そして、この建物の元の持ち主が芸術活動の支援を行っており、この建物も作品の所蔵場所として使われていたことを知ります。小國さんは、その意思を継いでここを活用したいと思い、仲間と一緒になって2013年から2年かけて掃除を行い、芸法のアートによるまちづくり拠点としました。それ以降、この建物や持ち主の物語を大切にしながら、この場所を使っています。
それを見ていた近所のおばちゃんが
なんだか、松井さんの学生から今に繋がる話が見えてきました。しかし、2年に1回の芸術祭以外では、なかなか小國さんと接点がないと言います。2人が一緒に長田で汗をかいて、仕事ができる機会があるといいな、と思いました。
「フレンド」出現
旧角野邸を出た後、駒ヶ林エリアを散策。路地を歩くと何かにぶつかる。生活と、アートと、歴史が路地でもじゃもじゃと絡み合っています。
駒ヶ林の路地をうきうきと彷徨っていると、急に手作り感溢れる佇まいの駄菓子屋「フレンド」が出現。フレンドのご主人にお話を伺うと、震災後に子供達の集まる場所として、もともとの仕事だった水道屋さんとの兼業で始められたそうです。ご主人はとても創作意欲が溢れる方で、店内には海岸で拾った貝殻で作った作品や、木彫りのお面や人形(クオリティが高い!)が飾られています。駄菓子屋部分も自分で増築されたそう。すごい。ほんとの趣味は写真で、写真は1人で創作する孤独な趣味で、駄菓子屋は子供と触れ合える趣味なのだとか。なるほど。今度きたときは写真も見せてあげると言ってくれました。
路地から抜け出て海岸沿を歩くと、防潮堤の切れ間から海と漁船がチラ見え。市場もあり、今でも漁業が行われていることが分かります。意外だけれど、ここも長田。雑多、カオスとも言えるこのエリアは、歩くのがとても楽しい。定期的に歩くと分かるのですが、少しづつ、でも確実にまちの様子は変わっていきます。今回見たこの景色が次来たとき、このままでいるとは限らない。
まるで台湾の屋台
まち歩きの最後は、商店街方面に戻り、長田区で唯一昔のままの姿を残す、丸五市場へ。
丸五市場は100年以上の歴史があります。長田の他の市場など広い地域が火事に見舞われた阪神大震災の日は、定休日で火が入っていなかったため、火災を免れ現在までそのままの姿で存続できました。現在は営業している店舗はかなり少なくなっています。しかし、6月から10月の第3金曜に開催される「丸五アジア横丁ナイト屋台」では、市場内に様々なアジア料理の屋台が出店され、その時には、すれ違うのも難しいくらいの人が溢れます。コロナ禍以降、開催ができていないのがとても惜しい。
市場内の中華料理屋さん「めいりん」は小さなお店ですが、店に隣接したオープンスペースで食べることができてまるで台湾の屋台に来たみたいです。台湾行ったことないけど。
イメージとは全く違った
今回のまち歩きでは、まちから綻び出でる「良さ」にツッコんで楽しむのと同時に、松井さんと長田のまちを繋げた方たちに会うことができました。松井さんは同じ神戸でも灘区で生まれ育ち、長田に対しては漠然と「怖いところ」というイメージがありました。しかし、インターンを機に長田を訪れ関わることで、そのイメージとは全く違う、お節介で、まちが好きな人の多さに魅力を感じたということです。
松井さんと一緒にまちを歩き、長田の人たちに出会い、話をきいて、長田の積み重なったまちの記憶と、先輩たちが繋いできたまちのプレイヤーとの関係が引き継がれ、何度も歩きたいまちになっていく予感がしました。
オススメのお店情報
初駒 兵庫県神戸市長田区駒ケ林町1丁目5−13 営業時間:12時~17時 休業日:不定休
フレンド 兵庫県神戸市長田区駒ケ林町5丁目7−11 太龍荘 営業時間:11時30分~18時00分 休業日:月曜日
丸五市場 兵庫県神戸市長田区二葉町3丁目11−2 営業時間:9時00分~18時30分 休業日:火曜日