2024年11月、豊橋市の駅前市街地をまち歩きしてきました。
今回のまち歩きマップ
豊橋は古くは東海道、現在も国道1号線と新幹線が通る交通の要所。東海地方で唯一路面電車が残るまちでもあります。ただ、関西に住んでいるとそれ以外のイメージってあんまりないかも。
今回はCHI&ME(地と芽/チトメ)というユニットで、豊橋の老舗の魅力を伝えるZINEなどを製作している竹本さんに案内をお願いしました。竹本さんは大学時代を過ごした豊橋にすっかりハマり、そのまま豊橋市に就職。特に昔から続く老舗と呼ばれるお店に豊橋らしさを感じていました。しかし駅前を中心に再開発が進む中で、親しんでいた街の姿が姿を消していくことに危機感を感じ、大学時代の先輩と一緒にZINEを作り始めたとのことです。




昼飯前の駅前散策
まずは豊橋名物の一つ「豊橋カレーうどん」をウロウロ〜カル参加メンバーで囲むことにしました。豊橋カレーうどんは、豊橋の自家製麺うどんをもっと楽しんでもらおうと2010年に開発されました。有名店はいくつかありますが、今回案内してもらった勢川(せがわ)本店はその総本山とも言えるお店だそうです。ちょうどお昼時ということもあって、お店には行列ができていました。列に並んでいる時間を利用して、2チームに分かれ交代で周辺をぶらっと散策へ。

駅前商店街から勢川までは飲み屋などの夜のお店と、昔からの渋いお店が混じったエリア。「この辺りお酒で盛り上がった人が多いので治安がちょっと…」という竹本さんですが、神戸下町界隈大好きなウロウロ〜カルチームには問題なしです。そんな中にぽつんとポケットパーク的な三角公園がありました。植栽も豊かで穏やかな空間。ちょっとアンニュイな三体の銅像もいい味。


実はこの三角公園は、150年くらい前、明治の終わりに豊橋駅ができた際に駅から東海道を最短距離で結ぶために升目の町割りを突っ切った斜めの道の名残り。中途半端な三角の敷地が、飲食街の中の癒し空間になったようです。この公園からさらに駅に向かうと、現在のメインの駅前商店街となっているアーケードの付いたときわ通りがあります。


豊橋カレーうどんの秘密
行列組とバトンタッチしてお店の前で待っている間も、勢川の渋い看板や地元のまちブラ系テレビ番組のシール、食品サンプルなどをつまみにお店を味わいます。カレーうどんの前にお腹が一杯。いや、お腹はとても減りました!早く食べたい!

お店に案内されると2階の座敷へ。初めてのお店だけど懐かしい感じ。子供の頃の家族の外食を思い出します。


さて、お待ちかねの豊橋市カレーうどんの秘密は、カレーに浮かぶうずらの卵、そしてうどんの下に隠れたとろろご飯!なんとカレーうどんの締めとしてシームレスにカレーライスが楽しめるという寸法。実は「豊橋カレーうどん五箇条」なるものが制定されているのです。
1.自家製麺を使用する。
2.器の底から、ごはん・とろろ・カレーうどんの順に入れる。
3.豊橋産ウズラ卵を使用する
4.福神漬又は壺漬・紅しょうがを添える。
5.愛情を持って作る♡
出汁の効いたカレーがまず美味しい。ご飯をとろろでコーティングすることで、うどんとセパレートされているだけでなく、するすると喉を通していきます。うどん+ご飯というけっこうなボリュームにもかかわらず、最後まですんなりいただけてしまいした。革命的。カレーうどん以外のメニューも豊富で通いたくなるお店でした。

水上ビル逍遥
お腹が満たされたところで、駅前商店街を抜けて水上ビルに向かいました。水上ビルとは、豊橋駅前からおよそ1キロに渡り用水路を塞いだ暗渠の上に建つ、店舗付き住宅(いわゆる「ゲタバキ」)ビル群です。戦後の闇市を発祥とする商店街が、駅前の再開発のために移転を求められましたが、適当な土地が見つからず、市街地近くを流れる農業用水路の上に3階建のゲタバキビルを建てるという大胆な手法がとられたのが始まり。その後の拡大と増築の結果、会社所有の豊橋ビル、縦割り区分で個人が所有=店舗付き住宅の集合した大豊(だいほう)ビル、店舗の上に県営住宅が乗る大手ビルからなる、現在の長大な水上ビルの姿が完成しました。



一階の店舗は渋い飲食店が残りつつ、空いた区画に新しいお店も混雑していて散策しがいがあります。毎月第一月曜日には「水上ビルの朝市」というマーケットも開催されており、実はちょうど明日が開催日。せっかくの機会なので一泊して朝市も覗く予定です。
冒頭のCHI&MEの活動のきっかけにもなったように、豊橋も駅前の再開発が進んでいます。大豊ビルの北向かいにあたる場所は、「名豊ビル」と「開発ビル」という商業ビルの跡地にemCAMPUSという、図書館や、飲食・物販施設とマンションが組み合わされた巨大な複合施設が建ちました。さらにその北側は、ほの国百貨店(旧・丸栄)がマンションに建て替わっています。どんどんとまちの景色が変わっていく中、現在はピカピカな施設とレトロな水上ビルが併存しています。


水上ビルの中でも大豊ビルの商店会が活性化の中心になっているようです。2004年、大豊商店街出身の黒野有一郎さんが東京での大学・就職を経験後、豊橋へ帰郷しビル内に建築事務所を構えました。そこから黒野さんを中心に、当時シャッター商店街となっていた水上ビルをアートプロジェクトや既存の店舗を活用したイベントなどで盛り上げてきました。また、ジンジャーシロップ製造所TEMTASOBI GINGER(テンタソビジンジャー)も2018年に大豊ビルに開業以来、豊橋の新たな名品となっており、同時に水上ビルの朝市に欠かせないキーマンとなっているとのことです。


店舗の一つ一つ、窓の一つ一つ、屋上に見える何かなどをビルの表から裏から味わっているとあっという間に時間が経ってしまいます。東側の大手ビルに入居したレコード屋さん、LiE RECORDSまでたどり着いたところで名残惜しいですが水上ビルから離れて北に向かいました。



銀座通り大手通り
駅から東西に走る路面電車が90度北へ方向転換する国道259号線の東側に、豊橋銀座通りがあります。一見すると何気ない道ですが、「豊橋銀座通り発展会」の表示板のついた街路灯と店舗と思われる建物が数件目につき、かつては東京の銀座にあやかった新進気鋭の商店街だったことが想像できます。この通りの東に人蔘湯というレトロでかわいい銭湯があります。人蔘湯は2020年に一度施設の故障のため廃業したものの、関西を中心に銭湯の事業継承を行うと「ゆとなみ社」と地元の銭湯を愛する人々の支援を受けて2021年に復活し、現在も営業を続けています。


銀座商店街から少し北に行くと、大手通りが路面電車の走る国道から斜めに分岐しています。立派な街路灯や、店舗建築が並んでいました。通りの名前のとおり、古くはお城(吉田城)に続く大通りであり、現在の国道ができる以前は、この通りを電車が走っていたそうです。



大手通りを北に進むと国道1号線にぶつかります。路面電車は再び直角に曲がり、国道1号線を東西に行き交っています。その北側に建つ豊橋市公会堂は、昭和初期に建てられた重厚なモダン建築で、現在も市民ホールとして現役で利用されています。各地で文化財級の公共施設が老朽化や耐震性の問題で存続が難しいことも多くなっている中、とても貴重な施設です。




国道1号線と259号線との交差点にかかる歩道橋は絶好の路面電車撮影スポット。2005年に廃線になった岐阜の路面電車(名鉄美濃町線)が譲渡された車両もあるとのことで、岐阜市出身の私にはグッとくるポイントです。

老舗のナラティブ
この辺りで折り返して駅前に向かいつつ、東海道沿いの豊橋の名店を巡ります。まずは、江戸時代から続く和菓子の老舗、若松園へ。若松園は竹本さんがCHI&MEで長期にわたって取材されているお店ということで、お店ではホームに帰ってきたかのような対応をしていただけました。目に鮮やかな名物の「黄色いゼリー」、ゆるいイラストにも見える千鳥の紋様がかわいい「ゆたかおこし」、豊橋のキャラクターであるトヨッキーちゃんの姿が練り込まれた「トヨッキーちゃん飴」、美麗な季節の上生菓子など、目にも楽しい伝統のお菓子とモダンなお菓子がズラリと並び、片っ端から制覇したくなります。

次は明治9年創業のお団子屋さん大正軒にGO!大正軒と言えばみたらし団子なのですが、他のバリエーション団子や団子を使ったスイーツも魅力的…、いや、やっぱりここはみたらし団子で。注文をすると、世界で唯一の自動みたらし団子マシーンに団子串をセットしてくれました。白い団子串は時計回りに回転するマシーンに運ばれ、まず軽く炙られてからタレのプールにダイブしていきます。プールから引き上げられると、再び炙りゾーンで焼き目がつけられ、最後は職人さんが一本づつ丁寧に仕上げていきます。実はこのマシーン、みたらし団子を効率的に作るためではなく、子どもたちが喜ぶように開発されたとのこと。確かにまんまと釘付けになって写真も動画を撮りまくってしまいました。出来立ての団子は柔らかくて絶品でした。

そして最後は、ルーツは江戸時代まで遡るというヤマサちくわ本店。歴史を感じさせる趣あるお店に入り、お店の方に神戸から来たことを伝えると、「神戸の方だと、姫路には蒲鉾のヤマサがあるでしょ。よく関係あるか聞かれるけど、実は全然関係ない会社なんですよ。」と、ぼんやりと疑問に思っていたことを解決してくれました。お店の中にはちょっとしたイートンスペースもあり、お茶を出していただけました。ありがたい。ちょっと寒くなってきたところだったので沁みました。

豊橋のレトロでモダンな夜
日も暮れて今晩宿泊するゲストハウスTHE EKAIに向かう道すがら、花園商店街という小さな商店街を通りました。現在は閉まっているお店が多いのですが、バブル期の頃はとても賑わった場所らしく、当時の昭和イケイケ感が保存されています。街灯の光がいい感じで映画のセットみたいでした。

THE EKAIにチェックインをすませ、晩御飯は駅前のスパゲッ亭チャオ本店で豊橋名物のあんかけスパを楽しみ、予定どおり人蔘湯へ。小さなお風呂屋さんですが、入ってみるとタイル絵がヨーロッパ(アルプス?)でエレガント。男湯は順番待ちになるほど人気でした。お土産に買って帰りたくなる人蔘湯のオリジナルグッズも充実しています。THE EKAIから歩いて10分弱と少し距離がありますが、豊橋の主な通りにはだいたい設置されている銅像で作品タイトル当てクイズをしながら散歩するにはちょうどの距離。豊橋に宿泊の際はオススメのコースです。




モーニング文化を堪能する
豊橋でぜひ体験して欲しいのが「モーニング文化」です。喫茶店で朝の時間にコーヒーを頼むと、ゆで卵やらパンやらが付いてくる「モーニングサービス」は豊橋が発祥とも言われています(諸説あり)。また、コーヒーに少し料金を上乗せすることで、とてもお得なセットにできる「モーニングセット」も合わせて豊橋はモーニング文化がとても盛んなまちなのです。
少し眠いですが、早めに起きしてTHE EKAIを出発。数ある喫茶店の中から、えいや!とコッペパンのモーニングサービスが楽しめる「珈琲水鳥」を選択しました。水鳥のある東海道まで朝の散歩がてらてくてく歩きます。

水鳥の店内はこだわりの内装で落ち着いた雰囲気の中に、ちょっと生活感も滲んでいて愛嬌も感じられました。1人でお店を切り盛りされているママさんが、気持ちのいい三河弁でからからとお話ししてくれます。現実世界から束の間逃れることができる理想的な喫茶店でした。



食後の日本茶まで出していただき、水鳥だけでも豊橋に来てよかった!と思ってしまうくらいに満足度が高かったのですが、この日の我々はモーニングはしごを決行することにしていたのであります。2軒目は、豊橋で愛されるケーキ屋さん「マッターホーン」へ。こちらはなんと「ケーキモーニング」つまり、ドリンクを注文するとその日のケーキがおまかせで付いてきます。おお、なんと甘美なシステム…。

ホテルのラウンジのように天井が高く明るいマッターホーンの店内は、朝からケーキを求めて盛況。ドリンクを注文してしばらくすると、なんと人数分のケーキの種類が運ばれてきました。お任せは一種類だけだと思っていたので嬉しい誤算!メンバーで平和的かつ厳正なる方法(じゃんけん)でケーキは分配され、しばし至福の時間。


コッペパンとゆで卵と軽めの水鳥、朝からケーキという貴族的行為を楽しめるマッターホーンという、最強に近いモーニングの組み合わせを見つけたかもしれません。しかしまだまだ豊橋モーニングはしごの可能性はあるはず。ぜひ自分なりの組合わせを楽しんでもらいたいです。もちろんお腹はちゃぽちゃぽになります。
水上ビルふたたび
今回のウロウロ〜カル豊橋編、もはややり切った感がありますが、まだ11時前。emCAMPUSで再び竹本さんと落ち合い、水上ビルの朝市を案内してもらいます。この日はたまたま祝日でしたが、いつもの平日開催の時でも、近隣の女性を中心としたお客さんがスタート時間からお目当てめがけて押し寄せるとのこと。ちょうど開始時間の11時に水上ビルに到着。どこからともなく波が打ち寄せるようにお客さんが集まってきて、確かに30分もするとあちらこちらに人だかりができていました。

出店は飲食と物販がざっくり半々くらいの印象。水上ビルにお店を持つ既存店と豊橋市内の地元のお店、そして市外からのお店が入り混じって出店しています。水上ビル(大豊ビル)の商店街が中心になっているイベントですが、外部からも出店があることで魅力的になっているし、新しい交流や次の展開のきっかけになるのかも。すぐ近くにできたemCAMPUSが、人だかりからの逃げ場所になっていそうです。





小さな図書館で豊橋に出会う
朝市もしっかり味わった後は、水上ビルからも豊橋駅からも近い、私設のシェア型図書館「ひとなる図書館」も案内してもらうことができました。最近各地で見かけるようになった、本棚の一区画をレンタルして棚のオーナーになり、自分のおすすめの本などを配架して利用者に貸し出すという仕組み。単に本のレンタルだけでなく、誰でも立ち寄れる場所の運営や、人の交流を目的としていることが特徴です。ひとなる図書館は2階が自習などにも使えるフリースペースになっています。インスタを確認すると今は60棚全て埋まっていてオーナーは順番待ちだそうです。CHI&MEのZINEや人蔘湯や豊橋の喫茶店を紹介するZINEに触れることができ、豊橋のまちを知るきっかけにもなりそうな場所でした。




豊橋のたくさんの道、その一本一本に通りの名前がついていました。市街地は戦火によって一度失われ、ほぼ戦後の再開発で出来た風景ですが、それぞれの道にはこれまで歴史や商業的な発展に紐付くストーリーがあり、注意深く歩きながら、気になったことを調べてみるとその断片を見つけることができます。と、書くと難しくなってしまいますが、例えば老舗を味わう、水上ビルをじっくり堪能する、ゲストハウスに泊まり銭湯に入りモーニングの極楽コースをきめる、渋ビルを探す、銅像で遊ぶ、多過ぎる通り名と街灯を集める、道の蓋を観察する、etc…、自分のピンとくる方法で楽しんでみると、いつの間にか豊橋のみちの深みにきっとハマれます。
オススメのお店情報
うどんそば処 勢川 本店
愛知県豊橋市松葉町3丁目88番地
営業時間:11時〜19時30分
定休日:月曜日
無名コーヒースタンド
愛知県豊橋市駅前大通3丁目118 A-1
営業時間:11時〜18時
定休日:水曜日
御菓子司 若松園 本店
愛知県豊橋市札木町87
営業時間:8時〜18時
定休日:水曜日
大正軒
愛知県豊橋市新本町10
営業時間:9時30分〜18時
定休日:水曜日
珈琲水鳥
愛知県豊橋市上伝馬町79
営業時間:7時30分〜16時
定休日:日曜日
マッターホーン豊橋本店
愛知県豊橋市松葉町2丁目3
営業時間:9時〜18時30分
定休日:水曜日